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オムニバス・レコード

不特定多数の執筆者による、無記名ディスクレビューブログです。執筆者の数はネズミ算式に増えていくため、ブログ開設者も執筆者の全容を把握していません。

コロニー / 麓健一

コロニー

 

一曲一曲、ボーカルが同じようで、違うようで、同じだ。ドラムが効いていてビート感が強い曲の中で朗々と歌う声も、弾き語りの曲でか細く歌う声も、ひとつの響きをかたくなに持ち続けている。赤ん坊のような響きだ。生命力と、今にも死んでしまいそうな脆さとが、ぶつからずにそのままある。

唯一独特の響きがあるのは、『Fight Song (山荘と水着)』。ノイジーなギターとドラムにあてられたかのような絶唱から、骨と肉を硬く保った一人の男の狂気が匂い立ってくる。他の曲に通底している甘やかさではなく、倒れかけている建物のようなエロスに満ちた歌声。

アルバムの前半の楽曲におかしな推進力を加えている、スッパマイクロパンチョップのドラムもさることながら、ホソマリの弾く鍵盤がすばらしい。バンド編成でのスタジオ録音の曲のみならず、ほとんどの曲を美しく彩っている。石を磨く水流のような寄り添い方で。このアルバムの(ずっしりとした感動の重みとは対照的に)軽やかな響きは、鍵盤のきれいな響きとリズムによるところが大きい。

このアルバムでは幸せが歌われていない。むしろ不安こそがこのアルバムを貫いている。「鈍感で幸福であるくらいだったら、敏感で不幸でいたい」と端的に言い切ったのはマツコ・デラックス。なるほど、敏感な人ほど不幸を掬い上げやすい。幸せよりも不幸の方が感じ取りやすいのだから。しかし、一曲一曲が、心を平たく、冷たくさせるのに、アルバム一枚を聴き終わった後、少しだけ心が楽になっている。それはこのアルバムが放つ不安の波が、僕の不安の波と打ち消し合って、心を静かにするからだ。

2011年、kitiレーベル、48分14秒。