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オムニバス・レコード

不特定多数の執筆者による、無記名ディスクレビューブログです。執筆者の数はネズミ算式に増えていくため、ブログ開設者も執筆者の全容を把握していません。

10th Anniversary SMAP SHOP! / SMAP

 

 

昨年末に解散したSMAPがキャリアの最後にリリースした楽曲、つまり現状における「SMAPの最新楽曲」を聴けた人は、実はごく限られている。というのも、CD店・ネットショップなどで一般流通した作品ではないからだ。

 

SMAPは2005年から期間限定ショップ「SMAP SHOP」を毎年末年始に実施していた。
そこでは、その年のコンサートやTV出演時の衣装展示や、店内でしか見られないメンバーのコメント映像、年ごとに設けられるコンセプトに沿ったアートワークで展開される各種グッズなどが販売されていた。

その中で毎年の恒例となっていたのが、2007年から登場した通称「39CD」だ。 

これは、その年のファンの応援に対してメンバーからの感謝=サンキューという謝意が込められた<3分9秒・390円>という1曲入りのCDで、中身はSMAPメンバーの断片的な台詞(例えば「ありがとう!」や「サイコー!」のような)をコラージュしたインストナンバーである。

そう、SMAP現時点でのラストチューンは、この「39CD」としてリリースされたトラックなのだ。

 

さて、この「SMAP SHOP」は年末年始に開催されるのだが、東京のみの小規模な会場1ヵ所、しかも屋外の吹きさらしにて先着順で整理券が配られるという極悪システムにより、ファンは極寒(時には雨や雪が降る)の中、始発レベルの早朝から列に数時間整列しなければならない。

さらにやっとのこと受け取った整理券に指定された時間に再度集合しそこからまた並び、ようやくグッズ購入へとたどり着くという、西遊記における天竺よりも遠いのではないかというキツすぎる道のりが課せられていた。

で、俺も例に漏れずその苦行を甘んじて受け入れていた。その理由は他でもないこの「39CD」を購入するためで、なぜなら毎年豪華なトラックメイカーが起用されていたからだ。

例えば、小西康陽中塚武中田ヤスタカ菅野よう子、ナカコーなどなど。名うての音楽家たちがSMAPのボイスサンプルをネタに3分9秒のトラックを作る。こんな贅沢な遊び企画があるだろうか。 

しかし、そんな特殊な条件だったからこそ、この「39CD」は参加したトラックメイカーの実力をかなり残酷に浮き彫りにしてしまうものでもあった。名指しこそしないが、中には正直二度聴くに堪えないものもあったりする。

まあジャニーズのやることなので、鬼のような進行で制作せざるを得ない状況があったのではないか、という想像もできるが、仮にそうだとしてもいい作品もちゃんとあるので言い訳は許されない。実はかなりシビアな条件による“トラック創作コンテスト”とも言える企画だったのだ。

 

結局「SMAP SHOP」は誕生10周年を迎えた2015年末の開催をもって終了となり、「39CD」の歴史もそこで潰えることになった。最後のトラックメイカーとして指名されたのは、tofubeats。彼こそが、現時点でSMAPのラストチューンを手がけた音楽家ということになる。

tofubeatsは、2015年リリースの椎名林檎の作によるシングル『華麗なる逆襲』のリミックスで初めてSMAP仕事に携わる。そのリミックスは端正にまとめられながらもまだまだ牙を隠している風だったのだが、その後「39CD」として制作した『10th Anniversary SMAP SHOP!』は、彼のエディットセンス&スキルが爆発した、本当にすばらしい仕上がりになっている。

3分9秒という尺のなかで、ポップスとしての起承転結・ダンスミュージックとしての機能性・アイドルソングとしてのシズル感が三位一体となっている仕上がりは、まさにプロの仕事。メンバーの台詞の意味に引っ張られることなく、発語の響きの快感を極限まで突き詰めながらも、各メンバーの声に宿るキャラクター性を最大限に引き出す構成は、この「39CD」シリーズの中でも屈指のクオリティとなっている。 

そして何より、本曲のなかでSMAPはただひたすらに、明るく、楽しそうなのだ。それがとってもいい。

 「ライドオーン!」「ハッピーハピハピ」「ワクワクする~!」「マジ!?」「えす、えむ、えー、ぴー!」「ありがとうございましたー!」

tofubeatsのカラフルなサウンドに乗る彼らの声を聴きながら想う。SMAPはなくなった。その終わりについては、誰も(もしかしたら本人たちも)なにも整理できていないのではないか。

なんにせよ、なにかが終わるということはそもそも、わかりやすく納得できる結論など出ないものなのかもしれない。

ただ、そのピリオドが例え不本意なものだったとしても、SMAPの音楽がこの曲で終わったことは、本当に幸せなことだとも思う。で、それがこんなに入手しづらい形態でリリースされた企画モノの作品であることも、多くの人に聴かれる機会を損なってしまっている不幸はあるものの、そのなんだかシマらない風情にも、不思議と愛らしさを感じたりもする。

 

このトラックにはただただ音の中で楽しみまくっているSMAPの姿が、これでもかというほどチャーミングに記録されている。そのあっけらかんとした清々しさは音楽家としての彼らには本来とても相応しいもので、そんな曲が彼らのラストチューンになったというめぐり合わせは、音楽家としてのSMAPの本質のようなものを映し出しているような気すらするのだ。

できることならtofubeatsとガッツリ組んだ歌ものポップミュージックとしての新曲も聴いてみたかったが、それは遠い未来のお楽しみとして心の奥に留めておくことにする。