オムニバス・レコード

不特定多数の執筆者による、無記名ディスクレビューブログです。執筆者の数はネズミ算式に増えていくため、ブログ開設者も執筆者の全容を把握していません。

Experimental Jet Set, Trash and No Star / Sonic Youth

エクスペリメンタル・ジェット・セット、トラッシュ&ノー・スター
 
オルタナの名盤に数えられることも多く、大きなセールスも記録した『Dirty』の次作となる、94年の作品。「ソニック・ユースの曲の中で一番の名曲は?」と訊かれて挙げられそうなのは、『Schizophrenia』とか『Teenage Riot』、『Dirty Boots』、『100%』というあたりだろうか。大曲嗜好の人なら『The Diamond Sea』とか『NYC Ghosts & Flowers』なんかも候補になるだろう。
 
《名曲》の例にもれず、上に挙げたような曲は、どこか突き抜けた感じがある。果てが見えない感じ、感動した自分がずっと遠くまでブッ飛んでいく感じ。言い換えれば、ソニック・ユースから離れても輝き続けるものがある、ということかもしれない。キッズがコピーしても同じ力がそこに宿って、光を放ち始めそうな。
『Experimental Jet Set, Trash and No Star』から受ける感動は、そういうのとはちょっと違う。突沸っぽくテンションが最高潮に達したようなハイではなく、安定した走行の中で感じたランナーズハイが続くみたいに健康的だ。スティーブ・シェリーのドラムが、前作『Dirty』のようにハードロック的に攻撃してくるよりも、スクエアにビートを作っている傾向にあるのが大きいんだろうか? ぶっきらぼうな言葉の羅列の中に、スーパーチャンク、レモンヘッズ、ハスカー・ドゥなどとバンド名が雑に挿入される#5『Screaming Skull』とかがいい例だが、ただ進んでいく感じの曲がすごく良い。ドラムが極端な緩急をつける『Bone』とか、ジャキジャキしたギターが主張的な『Waist』なんかよりも、さりげなく歌われていたり、淡々と展開する曲がこのアルバムの肝だと思う。
ラストナンバーの『Sweet Shine』は、キムのアンニュイと狂騒を併せ持ったボーカルの魅力が遺憾なく発揮された名曲。初めに挙げた代表曲群に優るとも劣らない。この曲が最後に来るギターロックのアルバムというだけで高く評価していいはず。通して聴いていて『Sweet Shine』にさしかかると、「眠りは死のいとこ」というナズのラップの一節をいつも思い出す。それだけスイートに眠たくなる。
隠しトラックが残す余韻もちょっと良い感じ。あれでアルバムの雰囲気が何となくまとまるのが不思議だ。