オムニバス・レコード

不特定多数の執筆者による、無記名ディスクレビューブログです。執筆者の数はネズミ算式に増えていくため、ブログ開設者も執筆者の全容を把握していません。

HELL DRIVER / THE GEROGERIGEGEGE

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ゲロゲリゲゲゲアンビエント作(1999年)


 日本のノイズユニットであるゲロゲリゲゲゲのパブリックイメージ(そんなのあるのかな)は「1,2,3,4のカウントで爆発」「掃除機でオナニーするおっさん」「単なるウケ狙いのしょうもないバンド」ってとこでしょうか。
 特にインターネットで検索すると上位には理解しがたい、「こんなの音楽なんて認めない」といような部分が目に付くかもしれません。
でもこのユニットのコアは、私的にではあるけれど、本当にきれいなものに思えます。

 

 ゲロゲリゲゲゲは作品のテーマに「自慰行為」を取り上げます(『Senzuri Champion』『Violence Onanie』等多数)。他者のいない性愛の爆発を乱暴に晒すことで作品に加速力をつけてきました。また、名盤と呼ばれる『パンクの鬼』は「~曲名~1,2,3,4」のカウントで5秒程度ノイズを演奏。その繰り返しで全75曲。
この時点で人によっては嫌悪感しかないでしょう。でもここで知ることをやめないでください。

 本作「HELL DRIVER」は上にあげたような直接的な性表現やハーシュノイズもありません。ライナーにもある通り(だとすると)山ノ内の家に出入りしていたピアノ調律士「大倉宏之」氏に捧げられた弔辞のような、個人的な作品とのことです。
 アルバムは1曲目『―――』緊張感と哀しみと呆然がごちゃまぜになった様な、でも異様に落着いたフィールドレコーディングから始まります。(環境音にもテンションがあるんですよ!)そしてピアノ曲、コラージュありのアンビエント曲、自作楽器の演奏と淡々と進みます。録音された年はバラバラでも一貫したテーマに基づいているためか、曲の印象にズレはありません。ひとりぼっちで夜の街を歩いているような、誰にも会わずに無言でいるような、そんな風景が浮かんできます。
演奏の後ろにある録音のノイズが不安の先にあるような落ち着きを与えてくれますね。
 
 ゲロゲリゲゲゲが扱う自慰行為の露出は、変態性のアピールというよりも自己完結の哀しみとか、疎外感の表現に使われていたように思います(下劣で強烈ではあるけれど)。そういう点で考えると、このアルバムにある感情はずっと表現してきたものを以前とは違う切り口で発表したものと言えるでしょう。
 本作は感覚的に激しい行為はありませんがストレートに感情を揺さぶってきます。
パロディとかレディメイドに依らない、素直な感情を表現したかったのかもしれません。

 世の中には孤独とか悲哀とかを表現する音楽がたくさんあります。きっと多くの人が共感を求めているからでしょう。でもそんな共感の輪にも違和感を感じてしまう人もいるんじゃないでしょうか。そういう人を受け止めてくれるやさしさみたいなものも、この作品には込められているかもしれませんね。

 

桜フルート / 池田若菜・谷口雄

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保守的なアートワークはともかく、J-POP以降の「桜ソング」「卒業ソング」を、フルートとピアノのみのインストゥルメンタル・アレンジで凛と聴かせる野心作。選曲は、超定番の福山雅治『桜坂』や森山直太朗さくら(独唱)』から、カラオケヒット常連のボカロ曲『千本桜』に活動再開後の宇多田ヒカル桜流し』まで、幅広い。

「奏者:2人」という制約が、かえって個々の演奏に高い自由度と闊達さを生んでいるように思う。主にフルートが原曲の歌メロを、ピアノがそれ以外を支える体制をとっていて、そこにときおり訪れる「役割交替」の瞬間はかなり高まる。また、スピッツ『チェリー』やレミオロメン『3月9日』では、バンドサウンドからのドラスティックな編曲の妙味を楽しめる。しかし編成こそ異なれど、どれも原曲の「聴き味」を忠実にのこしているので(例えば『チェリー』なのに妙にしんみりしたりせず、弾むような軽快さを担保してくれる )、そのあたりは腐心して作られたのではないだろうか。ラップパートのあるケツメイシ「さくら」、それから川本真琴aikoといったひと思いに言葉を連ねていくスタイルのヴォーカル曲などを、敢えて選んで挑戦するが如きフルートに、戦闘美少女的な(違うか…)心を打つものがある。

池田若菜(發展、元・吉田ヨウヘイgroup)と谷口雄(元・森は生きている)、東京インディ・シーンで引っ張りだこの両者を招集してイージーリスニングのCDを出す、という斬新な企画をいったい誰が考えたのか。さらに(分かる人には分かる付加価値だが)録音は宇波拓で、アレンジに佐藤優介も一枚かんでいる。彼らの参加作品をよく聴かれる方にも、もちろん流行歌に耳敏い方にも、春告げるこの音楽をお薦めしてみる。

Experimental Jet Set, Trash and No Star / Sonic Youth

エクスペリメンタル・ジェット・セット、トラッシュ&ノー・スター
 
オルタナの名盤に数えられることも多く、大きなセールスも記録した『Dirty』の次作となる、94年の作品。「ソニック・ユースの曲の中で一番の名曲は?」と訊かれて挙げられそうなのは、『Schizophrenia』とか『Teenage Riot』、『Dirty Boots』、『100%』というあたりだろうか。大曲嗜好の人なら『The Diamond Sea』とか『NYC Ghosts & Flowers』なんかも候補になるだろう。
 
《名曲》の例にもれず、上に挙げたような曲は、どこか突き抜けた感じがある。果てが見えない感じ、感動した自分がずっと遠くまでブッ飛んでいく感じ。言い換えれば、ソニック・ユースから離れても輝き続けるものがある、ということかもしれない。キッズがコピーしても同じ力がそこに宿って、光を放ち始めそうな。
『Experimental Jet Set, Trash and No Star』から受ける感動は、そういうのとはちょっと違う。突沸っぽくテンションが最高潮に達したようなハイではなく、安定した走行の中で感じたランナーズハイが続くみたいに健康的だ。スティーブ・シェリーのドラムが、前作『Dirty』のようにハードロック的に攻撃してくるよりも、スクエアにビートを作っている傾向にあるのが大きいんだろうか? ぶっきらぼうな言葉の羅列の中に、スーパーチャンク、レモンヘッズ、ハスカー・ドゥなどとバンド名が雑に挿入される#5『Screaming Skull』とかがいい例だが、ただ進んでいく感じの曲がすごく良い。ドラムが極端な緩急をつける『Bone』とか、ジャキジャキしたギターが主張的な『Waist』なんかよりも、さりげなく歌われていたり、淡々と展開する曲がこのアルバムの肝だと思う。
ラストナンバーの『Sweet Shine』は、キムのアンニュイと狂騒を併せ持ったボーカルの魅力が遺憾なく発揮された名曲。初めに挙げた代表曲群に優るとも劣らない。この曲が最後に来るギターロックのアルバムというだけで高く評価していいはず。通して聴いていて『Sweet Shine』にさしかかると、「眠りは死のいとこ」というナズのラップの一節をいつも思い出す。それだけスイートに眠たくなる。
隠しトラックが残す余韻もちょっと良い感じ。あれでアルバムの雰囲気が何となくまとまるのが不思議だ。